お知らせ・トピックス

学会・研究会

長時間透析に関する論文について~Vol.2 菱田先生

かもめクリニックでは、長時間透析・自由食が生命予後に優れていることを明らかにするために、名古屋大学と共同研究を進めています。

今般、名古屋大学による論文が受理されたので、概要版と原文を掲載します。

タイトル:Survival Benefit of Maintained or Increased Body Mass Index in Patients Undergoing Extended-Hours Hemodialysis Without Dietary Restrictions

ジャーナル名:Journal of renal nutrition

表記:J Ren Nutr. 2020 Mar;30(2):154-162.

 

『長時間透析と自由食による治療を受ける患者において、体重が維持もしくは増えることは生存予後の改善と関連する』

 

研究背景

血液透析患者さんにおいて、栄養状態の悪化は生存予後の悪化と関連する重要な問題として認識されています。必要な蛋白やエネルギーが確保されず栄養障害(protein energy wasting, PEW)に陥る結果、多くの透析患者さんが痩せてしまいます。実際に痩せている透析患者さんの予後が悪いことが報告されており、栄養状態を良好に保つことの重要性が指摘されています。しかし血液透析患者さんはカリウムやリンといった電解質のバランスや体液量を管理するため、非常に厳格な食事制限が求められ、栄養状態の悪化を来しやすいことが問題です。

かもめクリニックが実施する「長時間透析と自由食による治療」(以下、本法)は、1回あたり6~8時間という長い血液透析療法により電解質バランスや体液量を管理しやすくすることで、制限のない十分な食事を摂取して頂くことを可能とした新たな治療法です。本研究では、本法で実際に患者さんの栄養状態が良くなるか、また栄養状態の改善が良好な予後と関連するかを研究しました。

 

【研究対象および方法】

研究デザイン: 後方視的コホート研究

対象患者および比較の方法: 研究対象はかもめクリニックの患者187名。本法を実施された患者において、栄養状態の指標の1つと考えられるBody mass index(BMI)の推移を観察した。予後との関連を調べるため、かもめクリニックに転入後3か月目から12か月目までの間にBMIが維持もしくは増えた群と、減った群に割り振り、予後を比較した。

主要アウトカム: 総死亡

統計解析: Kaplan-Meier法およびCox比例ハザードモデルを用いた生存解析

 

【結果】

観察開始時の年齢中央値は61歳、43%が女性であった。

全患者の平均BMIは本法開始後に増加し、12か月目で22.9 kg/m2であった。138名の患者でBMI維持もしくは増加が認められ、49名の患者でBMIの減少が認められた。

中央値4.9年の観察期間中、BMI維持もしくは増加群では23名(17%)が死亡し、BMI減少群では14名(29%)が死亡した。Kaplan-Meier法による生存解析ではBMI維持もしくは増加群はBMIの減少群に対して有意に生命予後に優れていた(図)。Cox比例ハザードモデルで年齢、性別、観察開始時のBMI、透析歴、糖尿病性腎症、心血管疾患の既往歴、フェリチンを共変量とした多変量解析の結果、BMI維持もしくは増加群は減少群と比較して死亡リスクが65%低いことが示された。

【結論】

「長時間透析と自由食による治療」を受けた患者においてBMIが維持もしくは増加することは生命予後の改善と関連が見られた。

 

研究結果に対する考察

本研究は、「長時間透析と自由食による治療」を受けた患者においてBMIが維持もしくは増加することが良好な生命予後に関連することを示した初めての研究です。

透析時間の延長は、透析中の血圧の安定や十分な老廃物の除去を目的とした方法として認知されています。しかし透析患者さんに十分な栄養を摂取させることを目的とした「長時間透析と自由食による治療」はこれまでに報告がない革新的な治療法です。

本法により、BMIの維持もしくは増加を認めた患者の予後が良好であった潜在的な理由を考察します。第一に、透析患者さんでは低栄養状態や慢性的な炎症が高頻度に認められ、これによってたんぱく質やエネルギーを消耗した状態が持続していると考えられています。「長時間透析と自由食による治療」は通常の透析と比較して、栄養状態の改善に有用である可能性があり、実際にBMIの維持もしくは増加を認めた患者において生命予後の改善効果が顕著であった可能性があります。第二に、透析治療中に血圧がPLOSONE20200710ExHDvsCnvHD_Mortality 低下すると、心臓の筋肉への血流が低下や、脳への血流低下および萎縮と関連することが報告されています。長時間透析は時間をかけてゆっくり除水を進めることが可能であるため、透析治療中の血圧低下の回避に有用である可能性があります。また体重の大きな患者では透析中の血圧低下が少ないという報告もあり、自由食によりBMIの維持もしくは増加を認めた患者において、より血圧の安定と生命予後の改善が見られた可能性があります。

以上より、「長時間透析と自由食による治療」が、BMIの維持、増加に寄与し、生命予後を改善する可能性が示唆されました。なお、本研究においては過度な肥満患者は含まれておらず、本法における肥満と生命予後の関連についてはさらなる検討が必要と考えられます。