当クリニックのポリシー

長時間透析と自由食

長時間透析と自由食

長時間透析研究所 所長金田の口癖は「元気に、長生き」
その希望のため、金田は情熱を持って透析治療に取り組んできました。
それを信じてくれた患者の皆さまのおかげで、かもめクリニックの「今」があります。
所長金田の声を通して、前を向き続けるかもめクリニックの理念を感じてみてください。

長時間透析との出会い

当「かもめクリニック」で導入・実施している「8時間透析」にわたしが最初に触れたのは、1997年のこと。それは、1992年に発表されたフランスのシャラ博士(Dr.Charra)の論文でした。博士によると、1回8時間の透析と1日5グラムという厳しい食塩制限を445人の患者に施したところ、数ヶ月の間に98%もの患者が降圧薬の投与から解放されたとのことでした。薬の降圧作用で血圧をコントロールすることは、かねてよりわたしも王道と考えておらず、博士の謳う「8時間透析」に大きな驚きと同時に強い関心を持ちました。

一般的な透析治療で採用される「4時間透析」と食塩制限にはとても大きな難しさが横たわっています。7割前後の患者さまで降圧薬の使用を必要とするうえに、薬効が出にくい。加えて血圧の上下動が激しく変動幅が大きくなる傾向にあり、投与を止めると直ちに血圧が上昇してしまう。このジレンマとも言える難しさに煩悶している折に出会ったのが、シャラ博士の「8時間透析」というスタイルだったのです。

独自のメソッドと豊富な臨床経験に基づいた「8時間透析」

シャラ博士の論文との出会いから、わたしの20年に及ぶ「8時間透析」への傾倒はスタートしました。博士の研究は非常に示唆に富んだもので、降圧剤に頼ることなく透析だけで血圧を御するというわたしの目指すアプローチに大いに重なるものでした。しかし、大きくは1点。食塩制限と8時間という長時間の透析により、体内から余剰なナトリウムと水分が消え、血圧の安定につながるという博士の結論には、疑念を抱かざるを得ませんでした。なぜなら、4時間透析においても厳しく塩分の摂取を制限し、透析中の体重をコントロールすることで体内のナトリウムと水分は取り去ることができるからです。

つまり塩分と水分以外に「8時間透析」の優れた降圧効果の要因があると考えるのが自然でしょう。そこでわたしが目をつけたのが「尿毒素」でした。尿毒素には、長い時間の透析によりはじめて除去できるものから、体内のタンパク質と結びつき毒素として検出されにくいものまで大小のサイズが存在するため、尿毒素がこれくらいあるからこれくらいの透析ボリュームが必要だと判断しづらいのが実情です。そこで、「8時間」で血圧が下がらなければ、8時間半、9時間と透析時間をのばす。あるいは、週3回の透析を週4回にするというしなやかさを持つ現在の透析スタイルにわたしは行き着きました。また、一般的な透析で患者さまを苦しめる体の痒みや足がつるなども尿毒素に由来するため、これらさまざまな尿毒症状も抑えられるのが当院で提供する長時間透析のひとつの特徴と言えます。

ご飯を美味しくが、当たり前に。「自由食」の実現

次に。当院で、なぜ食事制限を行わない自由食を採用しているかについては、透析患者さまの血圧上昇と、体内の食塩や水分量との因果関係についてわたしが懐疑的な立場をとっていることは先に申し上げたとおりです。血圧上昇に起因するものがわたしの見立てた尿毒素であれば、塩分や水分を積極的に摂取したところで、長時間透析を実施する限り血圧は下がるはずです。そこで、患者さまのご了承のもと、長時間透析と自由食を組み合わせた画期的ともいえる透析治療を開始いたしました。

他に例を見ない試みであることからも、透析時間を段階的に増やしたり、カリウムのみは限定的に制限するなどさまざまな試行錯誤を重ねたなかで、はっきりとしてきたことがありました。それは、食事制限をせずとも血圧は下がるという事実です。今では、大多数のケースで当院の患者さまには、健康な方々と同じ、1日あたり10g前後の食塩量を含んだ食事を毎日召し上がっていただくという、まさに、「自由食」の実現を果たしています。

長時間透析と自由食の治療効果について

当院で提供する、長時間透析と自由食について、少し具体的にご説明させていただきます。
当院での透析治療は、1回8時間の透析を週に3回。食事は健康なご家族と同じものをお召し上がりいただく自由食の採用が大きな特徴です。加えてもう1つ。特徴的なものとして、一般的に200ml〜250ml/分で設定する血液流量を、「かもめクリニック」では通常1分間に150ml前後に設定していること。高齢の患者さまや糖尿病でお痩せになった患者さまなどは100ml程度の血流量で治療をはじめるケースもございます。なぜか。結論から申し上げると、高い血流量は患者さまの大きな消耗を伴うことが理由です。治療で疲れる。食欲がなくなる。痩せる。疲れやすくなる。こういった悪循環に陥らないためにも、当院で8時間透析をおこなうときには、それぞれの患者さまの臨床症状をもとに、低めの血流量から透析条件を設定しています。

血液の流量を抑えることで課題として持ち上がる透析効率の低下については、例えば血流量100ml前後でも、血中蛋白質の一種でもあるβ2-mgという大きな分子量を持つ物質がしっかりと除去されることからもパフォーマンスとしては十分であるとわたしは考えています。わたしは、いかに透析治療のあと、患者さまが軽い足取りで部屋を出ていかれるかに重きを置いているからです。このような治療を続けると、7割程度の患者さまの血圧が下がり降圧薬は不要になります。また、血液をゆっくり巡らせることでアミノ酸のロスを抑制できるので蛋白質が体内に蓄積され、体が本来の丈夫さを取り戻すにつれ、患者さまにひと目で分かる変化が起こります。目方が増え、健康体重に近づいていくのです。この状態に至るまでには、治療を開始してから数ヶ月から1年ほどでしょうか。そこからは透析に伴う痒みや吐き気がなくなったり、女性の患者さまを悩ませる肌の黒ずみがとれてきます。並行して、降圧薬やリンの吸着薬、カリウム、不眠解消の薬量がどんどん減っていきます。薬効に頼る必要がなくなるというのは当然のことながら症状が好転している分かりやすい例ですが、つまり治療がとても順調に進んでいることをなによりも強く示しています。

長時間透析と自由食をお試しいただきたい方々

一般的に、4時間透析の患者さまに心機能の低下が起こると不可逆的に進行し、死の転帰をとることが多く見られます。ところが、長時間透析と自由食および低血液流量による治療法では、心機能の低下は、しばしば可逆的に改善をします。心機能の低下の原因には、シャント血流の過剰や栄養失調および心筋症に由来するものなどがあげられますが、そのような患者さまには低血流量による長時間透析と自由食が非常に相性がよいとわたしは考えています。自由食による良好な栄養状態下では、不思議と心機能の改善を見るケースが多く、この背景には心筋が元気になったということ以外に、心機能の低下を招く毒素が長時間の透析で除去されている可能性もあると考えているからです。また、糖尿病を患っている方も同様に、低血流量による長時間透析。それから自由食を是非お試しいただきたい。糖尿病の患者さまも多くの場合、食事指導を受けていらっしゃり、腎不全などの合併症をお持ちの方では2重の食事制限をされているなど、栄養面で高度の障害をきたしています。繰り返しになりますが、透析を考えるうえで、わたしの根本には「やせ細ることは悪」というものがございます。8時間透析と出会う以前は、わたしもいわゆる一般的な4時間透析を採用していました。そこで得たのは、患者さまが痩せれば痩せるほど血圧は一向に下がらず、病状が悪化していくという医師としての苦しい経験と食事制限への強い疑念でした。

透析患者高齢化を迎えた今、そしてこれからの最適解

そこから20余年。低血流量による8時間透析と自由食という透析スタイルを確立した当院が現在、大きなテーマとして掲げるのが、お年を召した透析患者さまへの対応です。高齢の患者さまに食事制限をすると、体力が落ち、車椅子が必要となり、寝たきりの状態に至るまでのスピードは早く、こうならないために、つまり、透析患者さまが元気な状態でより長い人生を全うしていただくには、しっかりと食事をとるということにつきます。しっかりと栄養をつけたうえで、緩やかな透析を施し、透析時間を長く、あるいは透析回数を増やすようなアプローチをとることで、患者さまの体重減を回避することが可能です。ナトリウム、水、カリウムの多くを筋肉が蓄えることは多くの研究により広く知られているところですが、グリコーゲンもまた然り。筋肉には、体内の全グリコーゲンの約7割が分布しているため、食事で摂取したブドウ糖がグリコーゲンとして蓄えられる筋肉量が増加すれば、ただちに血糖が上昇するということは起こりにくく、こういったからくりが我々の提供する透析治療において高血糖抑制に無関係ではないと考えています。
また、それまで山のように飲んでいた薬から徐々に自由になっていくことも当院の患者さまにお喜びいただいている点です。先に申し上げた降圧薬や各種吸着剤などはもちろんのこと、自由な食事をきっかけにした治療の過程で、生きる実感を色濃くして精神安定剤も不要になるケースもあり、「かもめクリニック」ではこのような心身揃って健康に向かう状態の創出を、これからも前向きに目指して参ります。